高速ビジョンで「見る」

世界最速の技術で産業用ロボット、自動運転技術に革新を目指す


 産業用ロボットは、応用可能な領域が限られているのが現状です。というのも、これまでのロボットは柔らかいものを掴み操る、人間とリアルタイムに協働するなど、人間が簡単にできる作業の多くを苦手としているためです。
 東京大学 生産技術研究所の山川 雄司 准教授は、「高速ビジョン、高速視覚制御」を用いてロボット応用の課題に取り組んでいます。人間を超える超高速なロボットを開発することで産業界に革新をもたらし、自動運転や運転支援システムにも応用することで事故のない世界を目指します。


柔軟な物体を操作できるロボットが必要

 山川准教授が開発する高速知能システムは以下のような仕組みで構築されています。
1)高速ビジョンを中心にさまざまなセンサをネットワーク上に接続し、
2)起きている現象を高速に、高い精度で認識・分析する。
3)その結果をロボットにリアルタイムにフィードバックして、瞬時に必要な作業をさせる。
高速ビジョン、高速ロボットのスピードは現在、世界最速クラスとなっています。

 研究テーマは、東京大学大学院情報理工学系研究科に在籍時に高速ビジョンの可能性に触れ、同技術をヒモやタオルなどの柔軟な物体のロボット制御に応用することを選びました。高速ビジョンは、恩師である石川 正俊 教授が先駆者として開発した技術。山川准教授は、「石川研究室の『高速で見る』技術を生かして変形しやすく、柔らかいものを扱うロボットの研究ができると着目しました。当時は、高速にロボットがヒモを結ぶとか、柔らかいものを掴むとことは難しいとされていました」と、振り返ります。

 2011年に博士課程を修了した後も、ロボットで柔軟な物体を制御する技術を追求し続けました。山川研究室では、ワイヤーやヒモなどの変形しやすいヒモ状物体の動きの軌道を予測するなど、数々の研究プロジェクトを推進。これらの技術が確立されれば、現在は人の手に委ねられている製造現場での配線作業や、外科手術での縫合作業などをロボットに任せることが可能になり、幅広い応用が期待されています。

 しかし、柔軟な物体は運動の自由度が無限であり、またロボットが物体を操作する際にオクルージョン(手前にある物体が後ろにある物体を隠してしまう現象)が起こるため、その制御は困難を極めます。山川准教授は、人の動きや人以外の動きをモデルに落とし込むなど、さまざまなアプローチで課題を解決しようとしています。機械学習の採用もその一つで、高速ビジョンで解析し、得られた結果をロボットにフィードバックすることで、ミリ秒単位でロボット動作を修正する技術も磨き上げています。

 山川准教授は、「重要なのは、捉えた画像を処理し、画像の中に例えば、ボールがあるのか、人がいるのかを認識すること、そしてその場所を計測すること」と、シンプルながら効率的なアルゴリズムを活用することで画像を高速処理し、ミリ秒単位で情報を得ています。高速カメラは1秒間に約1000枚の画像を撮影することが可能で、そのデータは瞬時にパソコンで処理・解析されます。

Real-time Occlusion-robust Deformable Linear Object Tracking

ロボットと人間が協働できる世界へ

 人間と機械の協調も山川准教授の大きな研究テーマで、それをリアルタイムで実現させるために高速ビジョンを活用することも提案しています。3本指の高速ロボットハンドを使えば、人間の作業スピードを凌駕するスピードで作業が可能になります。

 例えば、ペグインホール(穴にピンを挿入する)作業。山川准教授の研究によれば、四隅に光を反射させるマーカーを装着した板(縦22センチ、横10センチ)を人が自在に動かしたところ、ロボットはその位置や向きを素早く検知し、直径6.25ミリメートルピンを直径6.3ミリメートルの穴に挿入することに成功しています。1ミリ秒間隔で画像データを収集し、板の位置や角度を正確に把握し、その解析結果をネットワークを通じてコントローラにリアルタイムで送り、ロボットが正確に板の位置を把握できたからこその成果です。

 「人間機械協調と言っても、以前は人間がロボットに合わせて動いていました。本来はロボットが人に合わせるべきなので、これは違うのではないかと思い、研究を進めてきました。究極的にはロボットが匠の技を習得したり、人とあうんの呼吸で作業をしたりできたらすごいと思います」。

Dynamic Human-Robot Interaction -Realizations of collaborative motion and peg-in-hole-

自動運転の安全を確保する最後の砦に

 長年にわたりロボットの技術開発に注力してきた山川准教授ですが、それと並行して近年、力を注いでいるのが、高速ビジョンを自動運転技術に取り入れることです。例えば、高速ビジョンは、死角から飛び出してくる歩行者の検知にも有効だということがわかってきています。

 「従来の車載カメラはスピードが遅いので、飛び出してくる歩行者を検知してからブレーキを作動するまでの時間がかかり、事故を完全に防ぐことができません。機械学習を用いると、ある程度の対策ができますが、機械学習は過去のデータしか学んでいないので、新しい状況に対処できないのです」と、山川准教授は指摘します。

 山川研究室が提案する新しいアプローチでは、単眼カメラで撮影した画像をアルゴリズムで解析して、自動車がその地点に到達する前に「死角」を認識することができます。この新しいシステムでは、特定の場所の奥行きに関する情報を獲得して、その情報から歩行者が隠れていそうな「死角」の可能性を計算し、その周辺を集中して画像処理を行います。これにより、データセットを用いた実験では、従来よりも高速に、歩行者の体半分が見えた時点で検知することに成功しています。

 「我々の強みは何よりスピードです。ですので、死角から飛び出す歩行者の検知は得意とするところなのです。歩行者との衝突を防ぐ最後の砦になると考えています」。

High-Speed Recognition of Pedestrians out of Blind Spot with Monocular Vision

世界最速システムを目指す

 山川准教授の究極の目標は、世界最速の高速ビジョン、高速ロボットの実現です。「ロボットが作業環境をより素早く見て、より賢くなれば、工場の生産性も大幅に向上します。例えば、現在は、ロボットの作業中はベルトコンベアーを止めるしかありませんが、技術が確立されれば、ベルトコンベアーを止めることなく作業を継続できるようになります」

 ただ、高速になればなるほど課題は生まれます。最大の課題は、高速カメラで撮影すると、画像が暗くなることです。現在はロボットにマーカーをつけて対応していますが、将来的にはマーカーなしで見ることができるシステムを目指します。これにも、機械学習と高速画像処理技術などを組み合わせ、高度な知能を持つ高速ロボットを開発しようとしています。

 山川准教授は、今後の技術革新でロボットの応用がさらに広がると期待しています。「産業の生産効率が上がるだけではなく、家事や介護などの分野にロボットの役割が広がるでしょう。人と一緒の生活空間にいても、安全確保をしながら生活の質も上げてくれるはずです」、とインタビューを結びました。

この記事は、東京大学 生産技術研究所の活動を読み物として紹介する英文広報誌「UTokyo-IIS Bulletin」に掲載されたものです。
≫生研出版物

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