東大生研座談会“AIと工学が拓く社会” (後編)

東大生研座談会“AIと工学が拓く社会” (後編)

 東京大学 生産技術研究所に通う大学院学生5名が、東大生研の菅野 裕介 准教授を招き、「AIと工学が拓く社会」というテーマで座談会を行いました。

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AI に創造性や感情はあるか

小川:私は建築の設計演習の課題でAIを使いました。主に、最初のブレインストーミングと、最後のビジュアライズでの活用です。建築デザインを専門とする者は、言語を形にするのが職能みたいなところがあります。そういったクリエイティブなこともAIができてしまうのか、という驚きというか、ある種の怖さみたいなものを感じました。

小川 真穂(司会)
東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻
東大生研 人間・社会系部門 今井 公太郎 研究室
修士課程2年

菅野:AIが出してくる建築に対する評価はどうなのですか?

小川:なかなか難しいですよね。ただ、AIだと意外な案が出てくることがあります。クリエイティブな人であっても、人間だと自分が見てきたものや固定観念にどうしても縛られているところがあります。さすがに今の段階で実際AIが提案した画像をそのまま使おうとは思わないのですが、インスピレーションは十分に得られるという印象です。

菅野:著者のいる文章やデザインには、どうしても著者のこだわりがでますよね。私たちはそれを良しとするところがありますが、特定の著者がいないAIの生成した文章やデザインを私たちは本当に良しとするのですかね。今、短期的にはAIが生成しましたという物語に対する何か期待感みたいなものが上乗せされるから、AIの生成したものに価値を見出しているのかもしれません。ある種のクリエイティビティが、置き換えが難しいのは、クリエイティブな発想自体がAIには難しいというより、受け手が属人性を求めてしまうからではないでしょうか。

佐藤:例えば、AIに名前をつけて仮の人格みたいにしたら、著者になれるんじゃないでしょうか?

佐藤 葵
東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻
東大生研 基礎系部門 芦原 聡 研究室
修士課程1年

菅野:そうかもしれませんね。ただ、皆さんVTuberを見る世代ですか?あれは中の人がいることをどこまで想定して見ているのでしょう?これまで自動生成されたキャラクターがちゃんと存在を持ったものとして扱われた事例はあるのでしょうか。

上野:ボーカロイドってあるじゃないですか。人が作曲作詞して、それを電子的な音で読み上げさせている。このあいだ中学生と話す機会があったのですが、その子はあくまで発音しているのは電子であることを分かった上で、このボーカロイドが好きだと言っていました。つまり、作詞作曲した人はどうでもよくて、電子的な存在を好きだと言っている。人間に対して持つような感情を、電子的な存在に持っている一事例に思いました。

上野 将輝
東京大学大学院工学系研究科 精密工学専攻
東大生研 機械・生体系部門 金 秀炫 研究室
修士課程2年

佐藤:AIが感情を表現できるようになったら結構変わると思うのですが、どうでしょうか?

小川:感情のあるロボットが、例えば福祉施設とかで介護をするようになると、介護を受ける側は、ほとんど擬人化して捉えてしまいそうです。

菅野:人が受け取りやすい感情的な表現を持たせることはできそうです。しかし、それって本当にそのロボットなりAIが内部的に感情を持ったと言えるのでしょうか。感情を持つのとはちょっと違ってあくまで人が機械の表現をどう受け取るかというインターフェースの話ですよね。感情の本質を考え出すと難しいですね。

小川:必ずしも生身の人間である必要のないものをAIにうまく置き換えて、生身の人間同士であることに意味が生まれるコミュニケーションに、より時間を割けるようになったと捉えるとよいのかもしれませんね。そう考えると、すごく期待したくなります。

菅野:それこそAIという存在を立てることで、生身のコミュニケーションって、そもそもどういうことなのか、ということに関心が高まることもあると思います。

小川:今はAIに対する心理的な障壁もあって、技術的な問題だけではないですよね。クリエイティブなことだからと言って、絶対にAIが入ってこれないわけではないと個人的にはすごく感じたのですが、逆にすべてAIに置き換えられることも考えにくいので、AIと人間をどううまく使いわけていくのかを考えることは、避けて通れないと感じました。

これからのAI

小川:これからのAIに期待や不安、疑問はありますか?

羽山:機械学習を画像認識ツールとして利用したことがありますが、精度を上げようと思うとすごく計算に時間がかかってしまいました。将来的に精度や速度は向上していくでしょうか?

菅野:基本的にはどんどん速く、小さく、軽くなっていくと思います。だからそのうちChatGPTなども、スマホ上でもオフラインで動くようになると思います。

嶋田:誰でも使えるようになると、例えば大学に行って勉強しなくてもChatGPTさえあれば誰でもある程度高度な教育を受けることができる。AIによって格差はなくなっていくんじゃないかと期待しているのですが、いかがでしょうか?

菅野:実は、それは難しい問題でもあります。現状はAIリソースを持っている人たちが勝ち続ける可能性のほうが高い。むしろすごく極端な勝ち組が増えるかもしれない。これを解決するには社会構造を変えないといけないと思います。

小川:私は人間が知らないことがどんどん増えていけばいくほど人々の恐怖心を煽ったり、いい方向だけでなく間違った方向にもAIが使われるのでは、と感じています。

菅野:そうですね。ある程度専門的な知識に基づく技術に関して中身を把握していない人が増えすぎると、適切な意思決定ができません。これはAIに限らず複雑化したテクノロジーでは常につきまとう話だと思います。どの分野でも知識のブラックボックス化とタコツボ化によって専門知識をもった人しか技術を適切に把握していない状況というのは、現代社会の1つの問題だと思います。専門家だけで議論しても全然役に立たないものができてしまう可能性もあります。実際に当事者を交えたもの作りをするなら、お互いにある程度技術的な理解をした上で議論する必要があるからです。

嶋田:生研には各領域の色々な研究者がいる中で、その研究者の方たちが、情報系の方々と手を取り合ってAIやディープラーニングを活用していくことで、また一歩広がっていきそうですね。

菅野:そのためには、初心者でも簡単に機械学習のモデルのプロトタイピングができるような環境を作って、それを実際にいろんな人に使ってもらうことが大事です。訓練データの設計やモデルの設計に、様々な人が関われるにはどうすればいいか、という議論も始まっています。実のところ、情報系は単独の分野として今後もあり続けるのか、というのは結構怪しい気がしています。あくまでツールとして他の分野に染み出していく方が妥当でしょう。しかし、まずは短期的にはいろんな分野で情報技術をどんどん使って開拓していく、その時に一緒にうまく連携してお互いがきちんと得する仕組みを作る、それが研究の場として大事だろうなと思います。長期的にはそれでも取りこぼしてしまうところを考え、社会実装にちゃんと展開させていく回路を作るのは大事だと思っています。そんな議論をする上で、さまざまな分野の研究者が所属している生研は、最適な場所だと感じています。

小川:AIを社会に実装するためには、生研の果たせる役割は大きそうですね。

嶋田:今回の座談会では、それぞれの専門からAIについて語り合うことで、各研究分野への応用の可能性からAIと共生する未来についてまで、新たな発見や気づきを得ることができました。また、異なる分野を研究する人たちが集まる生研の強みについても再確認できたかと思います。 お集まりいただきありがとうございました。

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東京大学 生産技術研究所の特徴のひとつとして、さまざまな専攻に所属する研究室が多彩な研究活動を行っており、また海外からの留学生等も多く国際色が豊かであることが挙げられます。
この記事は、大学院の進学先を探す理工学系の学生さんや、これから東大生研での活動を始める学生さんに、東大生研での活動・生活やキャリアパスを紹介する冊子「キャンパスライフ特集号」に掲載されたものです。
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