世界初!UAV海底観測:産学連携の舞台裏

東大生研 横田 裕輔 准教授 × 株式会社ハマ 金田 政太 代表取締役・鈴木 健人 技術担当 クロストーク

世界初!UAV海底観測:産学連携の舞台裏 東大生研 横田 裕輔 准教授、株式会社ハマ 金田 政太 代表取締役・鈴木 健人 技術担当

東京大学 生産技術研究所の横田 裕輔 准教授は今年、世界で初めて、UAV(無人航空機)を用いてセンチメートル精度で海底の位置計測を行うことに成功しました。その共同研究相手であり、UAVを開発したのが株式会社ハマです。同社の金田 政太さん、鈴木 健人さんと横田准教授は、観測をどう成功に導いたのか。産学連携の意義や面白さも、3人の話から見えてきます。

写真:左から横田准教授、金田さん、鈴木さん
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遠洋の海底観測を実現できる唯一の飛行艇型UAV

――今回の快挙は、横田准教授の観測計画が、ハマさんの開発したUAVによって実行に移されるという形で実現しました。巨大地震のメカニズム解明を近づける大きな一歩として注目を集めていますが、まずは、共同研究が始まったきっかけから教えてください。

横田:海底観測は現在、船を使って行われています。しかし時間もコストもかかるため、観測を頻繁に行うのは困難です。当時、東大生研の客員教授を務められていたJAMSTEC(海洋研究開発機構)の川口 勝義 先生とご相談して、私は、UAVを用いて海底観測を行う方法の開発を始めたのですが、当時、遠洋までの長距離を飛べてかつ海水面で離着陸できるUAVを見つけることができずにいました。そんな時に、新聞にハマさんの記事が掲載されていたのを見たんです。固定翼を備えて100キロ以上飛行できる飛行艇型UAVを開発されているとのことで、「これだ!」と思って連絡したのが最初でした。

金田:初めてお会いしたのが2020年の3月11日だったのが印象的です。というのは、弊社はいま福島にあるのですが、それは、東日本大震災後に福島に成長産業を集める「福島イノベーション・コースト構想」というプロジェクトに参加したことがきっかけです。震災から9年後の3月11日に、地震に関連する研究者が来社され、我々に相談をもちかけてくださったのにはご縁を感じました。

横田:当時のハマさんの機体は、観測機器を載せるには小さかったので、大きな機体を新しく開発してもらう必要がありましたが、それでも快く引き受けてくださったのはありがたかったです。

金田:海洋の観測・調査ができるUAVが開発できたらニーズは大きいはずと横田先生がおっしゃったことが後押しとなりました。もしかしたら、そう言ってそそのかされたのかもしれませんが(笑)、実際にいま、いろいろと声をかけてもらえるようになったので、横田先生の言う通りでした。

横田:よかったです(笑)。ヘリコプター型のドローンは、飛行距離が短いため遠洋での観測は困難です。私が計画していたような観測を実行に移せるのは、いまもハマさんの機体だけだと思いますよ。

海で実験を重ね、求める機体を作り上げる

――ハマさんが新しく大きな機体を作るにあたって、苦労や困難はありましたか。

鈴木:機体を大きくするとそれまでにない問題が出てくるので、様々な工夫が必要でした。特に大変だったのは、海底観測に用いる音響のトランスデューサー(変換器)の取り付けです。最初は、機体の底面部分に取り付けていたのですが、機体が大きいと着水時の衝撃が強く、トランスデューサーの取り付け部分が破損して水漏れを起こすことがわかりました。

機材を取り付けるために機体の底面に穴を開けた

機材を取り付けるために機体の底面に穴を開けた

――どのように解決されたのですか。

鈴木:トランスデューサーの取り付け部分の周りにポリカーボネート製の板をつけて、水面からの衝撃を和らげるようにしました。今回の観測はこの方法で乗り切りましたが、離水時の性能が低下してしまったので、今後、機体の形状を変えようと考えています。機体中央にある胴体を2つに分割にして左右に配置し、空洞になった機体中央部分を、機器などを積み込むためのスペースに するつもりです。

横田:十分な飛行性能を保ちながら、複数の機器を配置するのはとても難しかったかと思います。実験しては打ち合わせをして、修理や調整をしていただいて、そしてまた実験して、を何度繰り返したことか……。

――実験は、どこで行ったのですか。

金田:水槽と海の場合がありましたが、海の方が多かったですね。私たちは先述のプロジェクトの一環で整備された「福島ロボットテストフィールド」沖の海域を利用しています。その海が会社の目の前にあったので、海の実験がしやすくてありがたかったです。

横田:海の波とうねりは、人工的に再現するのは難しいですし、実際の海で実験するのは大切ですよね。

金田:そうですね。壊れた機体を直すのは毎度大変でしたが、海で実験を重ねられたからこそ、早々に課題を見つけ出せて、約2年という比較的短期間で完成に至れたのだと思います。ちなみに、横田先生も参加されての海底観測の実験は、水深1000mを超える相模トラフがある相模湾で行いましたが 、その場合は、実験機材や機体をトラックに積んで福島から現地まで運びました。その実験中に機体がトラブルを起こすと、夜な夜なトラックの中で機体を修理する、といったこともありました。

横田:ご苦労をおかけしました(笑)。

海底からの信号を確認するまで安心できない

――実験が成功した瞬間の喜びは大きかったと思います。

金田:通常の機体開発の際は、「あ、飛んだ!成功!」となりますが、今回は、海底からの信号を観測できていないと成功とは言えません。そのため、その場で「成功した!」って喜べる瞬間は特になかったような……。

横田:観測実験だと、機体に問題がなくても観測機器にトラブルがあったということもあるので、完全に成功したとその場でわかることは確かにあまりないかもしれませんね。

鈴木:地上でPCに向かっていた自分の場合、PCにコマンドを打って海底と通信して何らかのデータが返ってきたのがわかった時、「データが取れてる!」ってほっとした気持ちになりました。

横田:ハマさんの皆さんはいつも、データが取れたか確認できるまで気を抜かないでいてくださいました。私にとっても、海底からの信号が確認できると、「よし、あとはなんとかなるかな」という気持ちになれました。

UAVをプラットフォームとして海底測地観測技術”GNSS-A”を行っている様子 提供:株式会社ハマ

「とにかくいいものを作りたい!」と一丸になれる共同研究

――今回、ハマさんと横田先生は、それぞれ企業と研究者として、産学連携の形で共同研究をされました。立場の異なるお互いについて印象に残ったことはありますか。

金田:横田先生は、企業側の立場をよく考えてくださるので我々としては非常にありがたいです。スムーズに共同研究を進められているなあと感じます。

横田:以前私は、企業ではないですが、海上保安庁に勤めていました。そのため、組織の論理のようなものもいろいろと見てきていて、その経験が今回、多少役に立っているかもしれませんね。一方、金田さんたちも、大学とお仕事される機会は多かったと思うので、元々お互い、感覚がそう違わなかった気もします。

金田:そうですね。うちのメンバーは研究好きが多いので、横田先生の研究のような面白いテーマに出会うと、ビジネスそっちのけで「とにかくいいものを作りたい!」ってみな熱中してしまいます。アカデミアの方たちは、事業ベースの民間ではやりづらいような、純粋に探求的な研究にも正面から取り組めるので、そこに関われるのは自分たちにとっても大きな刺激になりますし、やはり楽しいですね。

横田:普通、企業との共同研究では、技術担当の人だけが来て実験をして、ということが多いですが、ハマさんの場合、社長や営業の方も含めて10人がかりで 来られる(笑)。それが1番印象的です。大変なことでもみなで一丸となって楽しんでやっていく雰囲気がすごくいいですよね。いずれにしても、いい関係で一緒に研究を進められていることを感謝しています。

専門機関の観測に使われる技術になることを目指して

――最後に、今後の展望や意気込みをお聞かせください。

横田:ひとまず海底の観測はできたものの、研究としてはまだこれからです。いまはまだ研究室での実験的な観測の段階なので、いずれ、専門機関による定期的な観測に使ってもらえるような技術にできるよう、運用やコストの面についても さらに研究を重ねていきたいです。

金田:今後、飛行から観測までをパッケージにして、社会に還元できるものにしていく必要がありますね。かつ、持続させるためにはビジネスとしても成立させないといけません。やることはいっぱいです。

鈴木:そのためにも自分は、先に言った機体形状の変更など、機体の改良をどんどん前に進めていきたいです。

横田:ハマさんは、海関連の企業とすでにいろいろつながりができているので、これからさらに忙しくなると思いますが、この研究も引き続きよろしくお願いします!

――今後の展開が楽しみです。今日はありがとうござました!

和気藹々とした対談風景。3人のやり取りは時に漫才の掛け合いのよう。

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関連リンク≫ 株式会社ハマ

横田 裕輔 准教授 UTokyo-IIS

【紹介研究者】
横田 裕輔(東京大学 生産技術研究所 准教授)
専門分野:海中・海底情報システム学

1949年の設立以来、東京大学 生産技術研究所は、基礎から応用まで幅広い工学研究を展開し、産業界との協力を重視してきました。数多くの共同研究や受託研究を通じて企業の研究者・技術者との交流を積極的に推進し、産学連携のトップランナーとして研究の発展と成果の社会還元を力強く進めています。さらに、寄附研究部門や社会連携研究部門を通じて外部人材を迎え入れ、その役割を一層強化しています。

東京大学 生産技術研究所 産学連携

記事執筆:近藤 雄生(ノンフィクションライター、理系ライター集団「チーム・パスカル」)

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